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東京高等裁判所 昭和24年(新を)689号 判決

被告人

山崎一男

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審の未決勾留日数中百日を被告人の言渡された本刑に算入する。

当審の訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

前略

弁護人の論旨第一点について

原判決は認定事実として起訴状記載の公訴事実を援用し、証拠として被告人の当法廷の供述以下多数の証拠を漫然羅列していること論旨指摘の通りである、しかしながら地方裁判所又は簡易裁判所においては判決書に起訴状に記載された公訴事実を引用することは刑事訴訟規則第二一八條によつて許されたことであるからこの点について原判決には何等違法はない。又判決の証拠説明には唯証拠の標目だけを示せば足り内容を遂一写録するに及ばないことは刑事訴訟法第三三五條第一項の明示するところであるから標目の羅列で差支えない訳である唯この場合どの証拠によつてどの事実を認定したのか即ち事実と証拠との形式的関聯はこれを示さなければならない。從つて多数の犯罪事実がある場合に漫然証拠を羅列しどの証拠でどの事実を認めたのか判らないような証拠説明は法の要求を満さないものである、但し挙げた証拠の標目から自からどの事実の証拠であるかが判然する場合は特にこれを明示しなくても違法という訳にゆかないし又全事実に共通な証拠は当然全事実に関聯するものであるからどの事実の証拠であると区別すべきものでなく全事実の証拠とした趣旨に説示すべきものである、この看点から原判決の認定事実とその挙示の証拠を見ると認定の事実は二個の窃盜事犯であるが証拠中大久保平吉作成の盜難被害届、檢事の同人に対する供述調書鴨下善太郞作成の盜難被害届檢事の同人に対する供述調書はその標認から当然前二者は判示第一の犯罪事実、後二者は判示第二の犯罪事実の罪証に供せられたものであることが判るその他の証拠はその標目からは何れの事実の証拠が判然しないし形式からは寧ろ全事実の証拠に供したものと認められる、よつて記録についてその内容を檢討して見ると果して右特記以外の証拠は判示第一、及び第二事実に共通なものであるから結局原判決は事実と証拠の形式的関聯を示すに直截簡明ではなかつたが兎に角推認することができ敢て違法というべきものではない。

同論旨第一点について

新刑事訴訟法は旧刑事訴訟法と異なり判決の証拠説明に証拠の内容を展示するに及ばす唯その標目を示せばよいことになつたのでその挙示の一証拠中如何なる部分を罪証に供したものか判然しない寧ろ形式からいえばその全部を罪証に供したものと一應認められるが認定事実と矛盾反対する証拠の部分は当然の事理としてこれを罪証に供しなかつたものと認むべきであるから原審が挙示した「被告人の当法廷の供述」中被告人が犯罪事実を否認する部分は当然これを罪証に供しなかつたものというべきである而してこれを除いた他の供述部分は情況証拠として判示犯罪事実の認定に價値あるつもりであるから原判決には虚無の証拠によつて事実を認定したという違法はない、論旨は採用しない。

中略

同論旨第四点の(一)について

刑事訴訟法規則第四四條によれば公判調書には弁護人の氏名を記載すべきことを命じているしかるに原審第一第二第三回公判調書を見ると弁護人の出頭したことは記載してあるがその氏名の記載がないことは論旨指摘の通りであるしかしながら弁護人選任書によると本件の弁護人は岸副儀平太唯一人であるから右出頭の弁護人は岸副儀平太であることが判明するしこれが右調書に記載せられなかつたとしても判決には何等影響するものでないから論旨は理由ないものとする。

中略

論旨第四点の(四)について

被告人のためにする控訴においてその不利益に帰するような控訴趣意は当然の事項として許されない、その一端は刑事訴訟法第四〇二條不利益変更禁止の規定にもこれを窺うことができる論旨は本件は累犯であるに拘らず原審はこれを認めず累犯の規定を適用しなかつたというので被告人の不利益に帰する主張であるからこれを採用する訳にゆかぬ以上論旨第四点に通し原審には審理不盡ありとして原判決を破棄すべき理由はない。

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